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第12回 アマミノクロウサギ訴訟などを通じて「自然の権利」普及に取り組む弁護士 籠橋隆明さん

アマミノクロウサギ訴訟の中で「自然の権利」に出会う

──それがあの有名なアマミノクロウサギ訴訟につながっていくわけですね。

 ええ、アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島にだけ分布する固有種で、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種に指定されている天然記念物のウサギです。ところがウサギが生息する奄美大島の森林にゴルフ場建設の計画が持ち上がった。アマミノクロウサギ訴訟は、その森に棲むウサギやオオトラツムグミなどの動物を守れというので、奄美大島に住む研究者や住民が反対運動を起したことからはじまったものなんです。
 私や環境・人権問題に関心を寄せる弁護士が、この訴訟の弁護をすることになったのですが、亜熱帯の珍しい自然を背景にした、しかも絶滅する種を救おうという運動だったので、これまで私が携わった京都などの都市部周辺の里山を守ろうという運動とはまた違った印象を持ちましたね。スケールの大きなエコロジー運動とはじめて出会ったという感じでした。
 この訴訟を弁護するに当たっては一つ大きな問題があった。アマミノクロウサギが生息する森林地帯は奄美大島のはずれですが、ゴルフ場建設に反対し訴訟を起こそうという人たちは、哺乳類研究会とか野鳥の会などに属している人なんですが、みんな都市住民なんですね。法律用語では「原告適格」というのですが、法律は本来個人の権利を守ることを前提としているので、直接的な利害関係が生じない都市住民が裁判を起こす権利を持っているのかということになるんです。
 ゴルフ場開発反対の住民にも、こういう裁判で勝てたためしはあまりないんですよと言っておきましたが、私自身もさてどうしようかなと思案投げ首だったんです。

──考えた結果出てきたのが、アマミノクロウサギを原告にして裁判を起こすという発想だったわけですね。

 ええ、もっとも、最初からアマミノクロウサギを原告にと考えたわけではなかったんです。奄美大島に向かう飛行機の中で読んでいた環境関係の本の中に、アメリカでは動物が原告になっているという紹介記事が短く載っていたんです。「動物が原告になる」といってもどうもぴんとこないけれど、その話を冗談半分に反対運動をしている人たちに話したところ、彼らがそれじゃ、やってみようと盛り上がってしまった(笑)。

──それで、籠橋さんはすぐにアマミノクロウサギを原告にして訴訟を起こすという手法を実行したわけですか。

 いえ、いえ、当時私は動物などの自然が原告になって自らの権利を主張する「自然の権利」という概念についても知らなかったんです。動物が原告になったら必ずメディアが取り上げてくれるだろうくらいの気持ちじゃなかったかな。それに、動物を原告にした裁判なんて弁護士として恥ずかしいから、文書作成くらいのお手伝いはするけれど、みなさん自分でやってくださいね、私はちょっと勘弁してほしいと言って逃げてしまった(笑)。
 でも、文書作成といっても、動物を原告にするような裁判で、いままで通りの書類で通るわけがないし、この際、動物が原告になるという裁判はどういうものか知っておこうと調べていったんです。そうしたらクリストファー・ストーンという人の論文の中で「自然の権利」という言葉に出会った。これは非常におもしろい発想だと思いました。
 それで、環境問題に関心のある大阪の弁護士と「自然の権利研究会」を発足させ、1年半ばかり理論を研究していったのです。

──「自然の権利」などといっても、文献などが豊富にあるわけではなかったのでしょう。

 もちろんです。まるで江戸時代に杉田玄白などが取り組んだ「和蘭事始」ですよ。英語の文献を読んで、これは何だろうと首をかしげる毎日でした。「原告が動物なんだから報酬はドングリでもらえるのかな」なんて冗談を言いあっていましたね(笑)。だから、動物を原告とした裁判にそれほど自信があったわけではなかったんです。もしかすると、半年くらいで敗訴するのじゃないかと。

──それで、アメリカでは、実際に「自然の権利」に基づいて動物が原告になる裁判が行われていたのですか。

 「自然の権利」を研究している間に、私たちはアメリカで実際に動物が原告になった裁判を見たことがありました。原告になったのは、ハワイを生息地としたパリーラという小さな鳥でした。ハワイの州政府がパリーラの生息を脅かすような政策を採っているというので、パリーラが原告となって州政府を訴え、パリーラが勝訴したんです。アメリカでは動物が原告になったこうした裁判がいくつも行われていることがわかってきたんです。

──「自然の権利」がアメリカで生まれたのはなぜなんでしょう?

写真
奄美「自然の権利」訴訟を提訴した翌日の新聞記事(1995年2月23日)

 「自然の権利」という考え方は、もともと1960年代から70代にかけてアメリカで生まれたリベラリズムが背景にあったんです。ベトナム反戦運動が盛んになり、合理主義やキリスト教などの既存の価値観に疑問が投げかけられた時代でしたね。東洋思想への憧憬などが生まれ、ヒッピーが新しい文化を象徴するものとしてもてはやされた。環境問題への関心も高まってきたけれど、思想的な傾向として、人間中心主義に対する批判が起こってきて、エコロジーの視点も「人間」から「自然」に移ってきた。それが「自然の権利」という発想を生んだのだと思いますね。根底的なところで、人間と自然との対立があったと思います。
 黒人が解放されたように自然も解放されなければならない。自然は奴隷的な拘束を受けている、自然はそんな人間社会に対して抗議すべきだというわけです。

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