そもそも光触媒とは何か? 現在実用化されている光触媒製品のほとんどは酸化チタンが原料だが、紫外線があたると酸化チタンの内部に電子と、電子の抜け殻にあたる正孔ができる。この電子が還元力を、正孔が強い酸化力を持つというメカニズムだ。
この光触媒はだいぶ以前にも世間の興味を集めたことがある。1980年のことだ。日経や朝日新聞の一面トップを飾り、プレイボーイ誌までが「世界の危機を救う光触媒=水素の世界」〜ゴキブリも水素の発生源になる!?と記事を組んだ。橋本先生らの研究だった。
「フラスコの中に酸化チタンの粉を入れ、ランプの光をあてる。すると酸化チタンに生成した電子が水を還元して水素を発生させ、電子の抜け殻が有機物を酸化させて二酸化炭素を発生させる。まぁゴキブリは冗談でやったんですけど、何も入れないと反応しないのに、有機物があると水素が発生する。ゴキブリが分解するのには1年以上かかりました。当時は第2次オイルショックのさなか。夢のエネルギーである水素が作れると脚光を浴びたわけなんです。」
しかし、光触媒はエネルギー問題を解決できなかった。光触媒が活性となるのは紫外線だけ。太陽光に含まれる紫外線は3%。屋外では1平方センチメートルあたり、最大でも3ミリワットにすぎない。酸化チタンを入れたフラスコに1週間太陽光を集光した強い光をあて続けて取れた水素の値段が、たった1円にしかならない。太陽のエネルギー密度が低いからだ。
エネルギー変換には使えないが、有機物質の分解には使えるにちがいないと、水処理や空気浄化など環境汚染物質の研究が盛んになったのは82、83年ごろから。以来20年間、実用化されているのはきわめて限定的な用途だけという。
「たとえば1モル(130g)のトリクロロエチレンを一辺10cmの1リットルマスの水に溶かします。どれくらいで分解するか? 水銀ランプで100日、太陽光で6年、蛍光灯ランプでなんと6000年! 光エネルギーが希薄だという壁を超えられなかったんです。」
発想の転換が必要だった。
「屋外の平均的な紫外線の光強度1平方cmあたり1ミリワットは、光子数でみると1秒あたり10の15乗フォトンです。エネルギーとしては小さいけれど光子数でみたら決して小さい数ではない。つまり1モル(6×10の23乗)という生活単位のレベルでは光のエネルギーは小さいけれど、分子、原子レベルで見るとモーレツに多いわけです。2センチのゴキブリで1年以上かかったとしても、2ミクロンの大腸菌なら20分。3次元空間では使えないが、2次元、すなわち材料表面をきれいにするなら十分に実用化できる。」
コギブリが分解してしまうぐらいの酸化分解力をもつなら、トイレの黄ばみぐらいきれいにできるんじゃないか。本郷のキャンパスのきたない便器を見て気づいたのは有名な話だ。そこからTOTOとの共同研究がスタートした。1990年のことだ。




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