第121回 ウェブからエンゲージメントを始める
IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人
前稿でも述べた通り、ICTの進化は、ウェブの使い方と使い手の進化を意味する。機能としての双方向性の自由度は加速度的に進化しているのに、CSRのみならず、企業と市民・社会とのウェブ上の対話は、ほとんど進んでおらず、企業からの一方的な発信に過ぎないものが圧倒的多数を占める。
本来なら「風通しの良い窓」や、「企業と市民が交流し、信頼から安心を共に創る場」でなければならないウェブサイト上のCSR情報領域が、「企業からの一方的(で部分的)な情報を貼り付けるだけで、内と外とを隔てる壁」になってしまっている状況を、一刻も早く打破するために、ウェブを通じたエンゲージメントの始め方を、具体的な事例からご紹介しよう。
ステークホルダーとの対話を恐れず、開かれた場を設け続ける
平成21年度の「環境goo大賞」で企業部門賞を受賞した損害保険ジャパンの「CSRの取り組み」は、環境への取り組みを打ち出しにくい非製造業、特に損害保険業でありながら、先駆的な取り組みを積み重ね続けており、データの蓄積に基づく情報の開示も、また、独自の取り組みの発信も、バランス良く行われている。
さらに、同社の取り組みが他社と大きく異なるのは、「CSRコミュニケーションサイト」を設けて、社内外の多様なステークホルダーとの対話の記録を開示するとともに、「オンラインCSR会議」の機能を設け、「地球温暖化対策のために企業ができること・個人ができることとは?」「人にやさしい会社・職場とは?」といった論題について、社外からも意見を求め、それに同社が応えるプロセスを公開していることだ。
同様に、同年度の大賞に輝いたリコーの社会環境ポータル「ガイアイア」も、社内の多様な現場で環境への取り組みを促すことを最大の目的としつつ、その情報を社外にも発信し、また、社内からの意見や取り組みも紹介することで、現場の従業員のみなさんが、自分たちの取り組みが持つ社会的な意義を確認できると同時に、社会とも共有しながら理解や取り組みを進めていくことができる、という、優れたねらいを体現したものだ。
「実績を伝えるだけ」から「次にすべきことをたずねて、判断・実践に支援を求める」
両社の共通点を極論するなら、「できていることを発信するだけ」ではなく、「次に自分たちがすべきことを、社会と一緒に共有しながら進めていく」という姿勢だ。
本稿でも何度も述べた通り、安全は製品・サービスを提供する側が保証することができるが、安心は相手との関係によって、つまり、相手に信頼してもらって初めて得る(正確には共有する)ことができる。最も大切なのは、「自分たちはちゃんとやっている」と結果を主張するだけでなく、「自分たちは次にこう進めようと考えるが、どうか?」「より効果的な手法や、より大切なことはないか?」と、次の行動に向けた判断をより良いものにするために、市民や社会に力を借りようとしていることにある。
今回、惜しくも入賞を逃したが、筆者がとてもすばらしいと感心したのは、パナソニックの「ecoideasnet」(エコアイディアズネット)だ。
電機メーカーにとって、温室効果ガスの排出量を2020年までに25%、あるいは主要先進国首脳のサミットでの国際公約である2050年までの半減を実現するためには、製造段階やサプライチェーンだけでなく、利用の現場、つまり、(単に消費するだけではない)市民にも、協力を求めることは必須だ。
同社はこのサイトを通じて、世界中の市民のアイディアや実践を共有するコミュニティをつくることで、自社内だけでなく、社会・世界全体で、環境負荷削減や自然保護への取り組みが進むことをめざしている。
市民の足あとを見せることから
あなたの会社が、ウェブサイトをおとずれる市民に、次にすべきことをたずねて、判断・実践に支援を求める、というところまですぐに姿勢を整えることができないなら、せめて、市民とのやりとりを促し、その結果を相手に示すことから始めよう。
20年度に企業部門の大賞を受賞した日立製作所の「環境への取り組み」では、閲覧者が簡単なアンケートに答えた結果を集計して示す「みんなのエコ声アンケート」や、閲覧頻度の高かった上位項目がわかる「みんなのランキング」など、市民とのやりとりを促した結果を相手に示す機能が組み込まれている。今後の期待として、年齢・性別など簡単な属性をたずね、「どんな人はどのページの閲覧が多かった?」といった集計も示せれば、分析も進むだろう。
対話は、恐れている間は始まらないし、進まない。
ますます世界の市場の多様性が進む時期だからこそ、多様な人々の力を借りる訓練を、加速的に積み上げていきたい。
(update:2010.5.13)
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