第124回 水の使用量と影響を可視化しよう
IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人
今年、ISO26000の発行と並んで注目や関心が高い、生物多様性条約のCOP10開催が、いよいよ10月に迫ってきた。関心の高まりは、現状の把握や可視化、取り組みの具体化を促しており、良いきっかけとなっていることを率直に喜びたい。
2001年からの10年間をふりかえると、CO2削減は、資源価格の高騰や関係法制の強化、さらにはカーボン・フットプリントやカーボン・ディスクロージャーなどの可視化の動きが拡がることにより、もはや必須の状況となった。生物多様性の保全も、意義の認識から接点や負荷の確認、やがて具体的な取り組みが拡がりつつある段階へと入ってきた。
気の早い話だが、次の10年の最大の課題は、水だ。
加速的に顕在化する「世界の水ストレス」
アジア大陸東岸の沖合にあってモンスーンが吹き抜け、降水量は年間平均1700ミリ、人口1人あたりでは3000トンを上回り、今でも国土の3分の2が森林で、島国ゆえに短い河川が無数にある、という日本において、文字通り、水はタダのように恵まれた資源だ。
しかし中国で操業する企業にとって、もはや水は、電力と同様に、量と質の制約をどう克服して安定的に確保できるかが、次の10年間どころか、現場の最も重要な課題の一つとなっていることは、改めて指摘するまでもない。
農業・工業・生活という3つの需要が同時かつ加速的に膨らみつつあることで、「量も質も」という世界の水ストレスは一気に顕在化しつつある。中国の人口一人あたり降水量は、日本の6割足らず。インドは半分以下と、ブラジルやインドネシアを除けば、新興国はほとんど、日本ほど水には恵まれていない。生産・販売やサービス提供の現場で必要な水を、「どう確保するか」ではなく、これまでの国内での取り組みとは全く違う高い水準で「どう節約できるか」は、これまでほとんど意識されてこなかったテーマだが、今後の海外展開の拡充には、不可欠な取り組みであることを確認してほしい。
使用量と影響の可視化を急げ!
環境負荷削減への取り組みも、マネジメントの基礎も、まずは接点の確認と定量化という可視化から始まる。水も、使用する量と、採取から排出までに地域環境に与える影響の確認から始めたい。
製造業の場合、製造拠点における水の使用量は把握していることが多いだろうが、製造業以外でも、飲食業なら調理や洗浄、観光業ならトイレや入浴や洗濯など、水は事業の継続に不可欠だ。業種を問わず、まず「自社」が使用している水がどの川や湖から来たのか、さらに、どの森のどれだけの面積で育まれたのかを、まず確認しよう。
もちろん「自社」とは、工場や店舗・事務所だけではない。原材料の調達段階や、販売・提供時や、廃棄された製品の処理工程も、商品(製品・サービス)が影響を与える社会の範囲である以上、自社と社会との接点として把握し管理する必要がある。洗濯のすすぎが1回で済む(無リンの)液体洗剤は、日本国内ではまだ十分な市場の評価や支持を受けていないが、旱魃に悩む南半球で高い評価を受けているのは、当然で妥当なことだ。
CO2について、調達から廃棄までのライフサイクル全般を範囲とした、カーボン・フットプリントやカーボン・ディスクロージャーという負荷や影響の把握と可視化が進みつつあるのと同様に、水についても「ウォーター・フットプリント」や「ウォーター・ディスクロージャー」が求められる日は近い。まずは把握と可視化を急ぎ、サプライチェーン全体で負荷の削減をどう進めるかを、検討し対策を進めるきっかけをつくってほしい。
発想のパラダイムを変え、水の保全にも貢献を
世界の水ストレスに、中長期的な経済合理性を伴う方針で臨むなら、工場や店舗の進出のパラダイムを、根本的に変えてほしい。
かつて石油が最も重要な資源だった時、その輸送や加工・利用の最適化を至上命題にプラントやコンビナートが形成された。水も同様に、利用時と排出時に求められる質の共通性から、「半導体工場+ショッピングセンター+病院」といった組み合わせで、水の輸送や加工・利用の最適化を至上命題とした事業所の集積や組み合わせを提案し実現する力が、日本企業に求められている。ところが非常に残念なことに、経済産業省主催の水関連産業に関する研究会やプロジェクトは、既存の技術や製品の切り売り(部品売り)に過ぎず、かつてイギリスやドイツが、インドや中国の石油化学分野において、環境配慮型のコンビナート開発を進めるために、官僚の育成から法制化の指導、開発計画の立案支援を行った上でコンペを行わせたという「水源からのアプローチ」にことごとく敗れた経験を忘れたか、知らないようだ。
ひとつ、日本の企業が他国に先駆けて取り組んでおり、それを各地に展開することで大きな優位性が期待できるのは、水、つまり森の保全への貢献だ。すでに飲料系メーカーを中心に、取水・採水地の上流の森の保全に取り組む活動が始まっているが、それは原材料調達の持続可能性を高めるという、本業そのものでもある。水ストレスの加速的な深刻化が見込まれる新興国こそ、水の保全に貢献する取り組みを、自社のみならず、同業や異業種の他社とともに進めてほしい。
(update:2010.9.9)
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