IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人
第68回 市民団体と協働するために
ステークホルダー・エンゲージメントとは、利害共有者を巻き込み、その力を借りることだ。
その具体的な取り組みの1つとして、NPO(民間の非営利組織、いわゆる市民団体)との協働を始めたい・深めたいという意向の高まりを感じている。
市民団体と協働する上で大切なポイントを、まとめてみた。
協働とは、相乗効果を生むプロセス
最初に、協働(collaboration)とは何か、を確認しておきたい。
誰かと誰かが、何かを一緒にやっていれば、すべてが協働だというわけではない。「NPOと何か一緒にしたい」と思っているだけの段階で、「おもしろそう」と感じたプログラムを行う団体に資金を提供するだけでは、NPOの活動を支援しているに過ぎない。
一方、原材料として大量の水を必要とする企業にとって、工場の水源域の保全の重要性を感じて、その森の保全活動に取り組む団体や研究者に教えを求めながら、ともに営林活動に取り組むことを通じて、地域の住民や自治体だけでは困難な課題を解決することは、自社製品のブランド価値を向上することにもつながるだろう。
つまり協働とは、「1+1>2」となる相乗効果を生み出すプロセスであり、「互いの強みを引き出しあって、ともに考え、ともに汗を流すこと」と理解すべきだ。
ニーズとチカラは共有しているか?
このように、単なる支援と協働との違いは、ともに汗を流すチームとなれるかどうか、にあると言える。
その条件となるのは、企業とNPOの双方が、取り組むべき課題や理想についてニーズと責任を共有し、解決・実現するために必要なチカラ(技能や資源)を有していることだ。
前述の工場の水源地域の森林保全の例で言えば、企業もNPOも、その水と森を守りたいと考えており、NPO(や研究者)には地域の生態系の知識や営林の技能があり、企業には、資金だけでなく、ボランティアとして活動の担い手となりうる社員も多い。
社員に呼びかけるのは簡単ではないかもしれないが、活動に参加した社員は必ず、水源の森の大切さを知り、活動に自発的に参加する住民と個人的なつながりも生まれる。このように「地域に顔が見える」活動こそ、信頼の向上を目的とする社会責任(CSR)への取り組みとして、最も効果的だということだ。
つまり協働と呼ばれるためには、企業側もNPO側も、かかわる人々がともに、その事業やプログラムの「当事者」として、参加する権利や義務を十分に理解していること、そして、プログラムとしての品質を保証するために「専門性」を有することが求められる(図参照)。
だからこそ企業は、自らの問題として、その課題に取り組むニーズを確認する必要がある。外部から頼まれたものに応じるだけでなく、社是や、同地での操業・営業を続ける上で不可欠な要素(水や森、交通安全など)から、継続的に取り組むべきテーマを選び取る必要がある。
また、協働の相手を選ぶ際にも、「こういうことがしたい!」という希望だけを聞くのではなく、相手の実績や実施体制などから、それが本当に実現できるのか、その成果の向上のために自社はどう貢献できるのかを見極める必要がある。
協働とは、当事者性と専門性の重なり合い
よい協働を生み育てるための、助走期間を
よい協働を生み育てるためには、相手の強みや弱みを理解し、ともに考えながら進める助走期間を設け、動き出してからも、どちらか一方だけでなく、双方が動き続けることが不可欠だ。
具体的には、自社が取り組みたいテーマを絞り込んだ上で、複数の団体に呼びかけ、地域で既に行われている活動について学んだ上で、それに協力するのか、それとも、新たな活動を生み出すのかを検討した上で、相手を決めることになる。
その際、単に経費を提供するのではなく、自社としても投資と位置付けるのであれば、協働の期間は、単に1回限りや1年で終わるのではなく、少なくとも3年間以上にわたるものと考えておくべきだ。
長期間に及ぶ協働の成果を確実なものにするためには、助走期間をどう設けるかも、重要なポイントとなる。そこでお勧めしたいのは、協働相手とともに、調査を行うことだ。
NPOの多くは、活動するチカラは豊かでも、調査したり、それを発表したりするチカラが弱い。このため、企業の資金や人材をもとに、そのことがらに関するこれまでの経緯や今後の見通しをまとめる調査を行うことは、地域にとって貴重な機会となる。
M&Aに綿密なデュー・ディリジェンス(注:相手先企業の価値やリスクの精査)が必要なように、協働にもニーズとチカラのアセスメントが不可欠だ。地域の課題解決の担い手として、顔が見える関係を育てるためにも、その確認から始めてほしい。
(update:2006.1.5)