IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 川北 秀人
第65回 これまでの15年と、これからの15年
中期計画など、中長期的な経営戦略に、CSRへの取り組みを盛り込む企業が増えてきた。その位置付けが高まってきたことを率直に喜びたいが、しかし、どうせやるなら、いいものにしてほしい。そのポイントとなるのは、広く深い視野、つまり中期目標と方策を決める前に、「これまで社会はどう変化したか」と「これから社会はどう変化しそうか」を整理することだ。その際の時間の単位は、3年間や5年間ではなく、15年間とすることを強く勧めたい。
社会の変化を、
どれだけ広く・深く読むか
各社の「CSRビジョン」や「CSR中期計画」と呼ばれるものを見ていて不安に感じるのは、「社会における責任(Social Responsibility)」が問われているのに、社内体制の段階的な整備しか取り上げられていないことだ。
もちろん、結果として、社内体制をどう整備するかを定義し、実施することはとても重要だ。しかしその前に確認しなければならないのは、社会そのものがどう変化し、その中でどんな責任が、どれだけ求められるのか、つまり責任の3次元(項目×主体×深さ)の定義が、今後どう変化するのかを見通すことだ。
新しい責任への取り組みを始めたり、従来から取り組んでいる責任により深く取り組んだりするためには、組織の文化や風土に踏み込む必要がある。新しい商品を開発するのに5年間かかるなら、人材の育成にはその2倍の10年間はかかるだろう。文化や風土を育てるには、さらにその1.5倍、15年程度はかかると考えるのが、妥当ではないだろうか。
CSRは急に育たない。だからこそ、広く深い視野が不可欠だと筆者は感じている。
1990年からの15年間と
2020年までの15年間
今年、2005年は、終戦から60年、いわゆる「55年体制」から50年という、「昭和から21世紀へ」という大きな節目の年でもあるが、「1990年から15年、2020年まで15年」という、大きな変化の途上の年でもある。
日本国内ではバブル絶頂期の90年から翌91年には崩壊、そして「失われた10年」と呼ばれる時期を迎える中で、世界では冷戦、つまり共産主義との対立構造が一気に解消したにもかかわらず、平和の恩恵を受けることなく、地域内紛争や民主主義への脅威は収まっていない。
しかし92年のリオ・サミット、97年のCOP3(京都議定書の採択)など、環境問題へのグローバルな取り組みを促す枠組みは、加速的に進化している。
一方、欧州共同体(EC)は欧州連合(EU)へと進化し、通貨やヒト・モノの移動に関する共通政策を一気に実現するとともに、厳しい環境規制を次々と導入している。
その間に中国は、韓国は、ITは、少子高齢化は、と見ていけば、この15年間の変化の激しさを改めて実感するだろう。これからの15年間は、変化がさらに加速すると考える必要がある。
2020年。日本では65歳以上が人口の4分の1を占め、地域経済や社会保障制度は抜本的な質的変化を迫られる。そのときまでに、中国をはじめとするBRICs諸国は、欧州は、米国は、中東などイスラム系諸国は、それぞれどう変化するだろうか。その変化の中で、自社がどんな商品を、どういう人たちに、どんな位置付けで買ってもらうのか。
そのために必要な経営戦略の柱として、CSRへの取り組みは何を重点として、どこまで実現し、どんな価値を社内外にもたらすべきか。長期的な展望と、短期的に配慮すべき要素に十分に配慮した上で、決めていく必要があることがおわかりいただけるだろう。
基本価値のデザインだからこそ、
広く深い視野を
品質管理に終わりがないのと同様に、コンプライアンスにも、CSRへの取り組みにも、決して終わりはない。だからといって、続けるだけでは成長も個性も生まれてこない。大切なのは、展望をもとに目標の再定義を怠らず、顧客や社会とのやりとりを通じて成果と課題を確認し続けることだ。
もはや経営者にとって、CSRへの取り組みは、自らデザインすべき企業の基本価値の1つであり、だからこそ、広く深い視野が求められる。この秋、周囲を巻き込んで、展望を広げる機会を積極的に設けてほしい。
(update:2005.9.8)