美しい味の日本 特集 Vol.2 日本一きれいでおいしい町 みなまた (熊本県水俣市)
地元学のすすめ 「水俣病資料館」地元学ネットワーク主宰 吉本哲郎館長

吉本哲郎さん
不知火海を臨む高台に建つ『水俣病資料館』は、水俣病と闘い、偏見と闘った被害者や家族のつらい体験を通して、世界中の人々が公害病の惨劇を繰り返さぬよう、正しい認識を後世に伝えるため平成5年に開館した施設である。
昨年、館長に就任した吉本哲郎さんは、90年代に水俣市役所環境課の課長として町の再生に尽力。現在は地元学を提唱し活動している。その吉本さんは館長就任最初の展示で、水俣病患者の杉本雄一さん・栄子さん、緒方正人一家、水俣病患者やその家族の苦しみを綴った『苦界浄土』の石牟礼道子さん、それぞれの個人史を徹底的に調べ直し、これをパネルで展示。家族の凄まじい体験を通じて、水俣病を問い直した。
「新潟で同じような公害が出たといえば、新潟水俣病と呼ばれ、今度はアマゾン水俣病なんて言われる。世界的負のイメージを背負わされた水俣を、世界に名立たる環境都市にしたい」。環境課の時代、吉本さんが注目したのが「水とゴミと食べ物」だった。それは「工場が垂れ流した排水というゴミが原因で海の水が汚れ、そこで育った魚という食べ物を口にして人が病に倒れた。だから、この三つを世界のどこよりも気をつけていけば、町はきっと再生できる」

まず吉本さんは、地元のことを徹底的に調べ上げた。河口から水源まで歩き、水のゆくえを追ううち、台所の汚水が、自分の田に流れていたのに仰天し、実家の畑や庭先を調べるうち、母親が、年に六十種もの野菜を作り、午前2時に起きて直売所の饅頭を作っていることを知り、その作る力に圧倒された。目からうろこだった。こうして地元の人も、川や山を見る目が変わっていき、今ではゴミの21分別、蛍光灯のリサイクルまでやるエコシティーとして、見学もたえない。さらに環境にいい食べ物や道具を作る人たちを環境マイスターとして表彰したりと数多の積み重ねから、吉本流地元学が生まれた。
地元学とは、地元の豊かさに気づくための手段。ないものねだりではなく、あるもの探し。グチから自治へ。地図とカメラを手に地元を歩く。あれっと思ったもの、気になったもの、出会った人には許可をもらい、写真に収める。そうすることで、よく目を凝らして眺め直す。
子供も老人も、誰でも参加できる。できれば、よその町の人も混ぜる。そして水のゆくえ、山の仕事、海の幸、自然神、ばあ様の畑、○○さんの住まい方、子供の遊び、商店街マップ・・・何でもいい、テーマを作って絵地図を仕上げる。そして成果はすべて地元に残す。
全国の小学校や老人会、商店街や山村で、この地元のあるもの探し、地元学が流行れば、日本は面白いことになるぞ、と密かに期待している。
「地域という扉を開けて、あれがない、これがないと文句を言うのは二流。地域の資源をうまく料理するのが一流。これを黙ってやるのは超一流。あるものを組み合わせ、イメージする力が大切」と地元を冷蔵庫に、地元学を料理にたとえる吉本さん。
「まあ、堅い話は抜きたい。川で泳いだり、魚釣りしたり、火をたいたり、自分でご飯を作ったり・・・都会にないものは、何でもある。とにかく一度遊びにおいで」と笑った。
- ■「水俣病資料館」のサイト http://www7.ocn.ne.jp/~mimuseum/
■吉本哲郎さんの主な著書 増刊現代農業『地域から変わる日本 地元学とは何か』 農文協(2001年5月号)
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