第9回 ときを超えて、木造建築を伝え続ける

木は二度のいのちを生きる

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世界最古の木造建築法隆寺。今も主要な部材は、飛鳥時代の木が使われている。

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しかし、その主要な部材も修理の跡が所々に見受けられる。
 伝統木造建築の修繕といえば、法隆寺専属の宮大工として知られた故・西岡常一氏を抜きにしては語れない。西岡氏は明治41年に生まれ、宮大工の仕事に携わり、昭和9年にはじまった「法隆寺昭和の大修理」の際に棟梁となった。法輪寺三重塔、薬師寺金堂の再建なども手がけ、「最後の宮大工」とまでいわれた人である。

 西岡棟梁は、「木」にこだわり、「伝統的な大工の技術」を後世に残し、伝えることにこだわり続けた人であった。明治時代に東大寺大仏殿に鉄骨を導入した建築家と西岡棟梁は、対極にある人といえる。西岡棟梁が書いたり、対談したものを読むと、ただ伝統的な木造建築の修理・修繕、再建を志しただけではない。法輪寺の三重塔の再建にあたって、「外形の復原ではなく内部の構造・構架も飛鳥の様式にというのが、私どもの考えで、飛鳥の工人の足跡をそのまま踏み行っておく」(『聞き書き・日本建築の手わざ 堂宮の職人・飛鳥に生きる』)ことをめざしたという。
 
 
 西岡棟梁は、できるかぎり創建当時の素材、技術によって伝統木造建築を復原しようとした。メンテナンスにあたって、鉄やコンクリートを使うことを嫌い、木にこだわったのも、「飛鳥の工人の足跡」を伝えたかったからだろう。
 飛鳥の工人は、木の性質を実によく知っていたと、西岡棟梁はいう。たとえば、山に生えていたとき、南側に向いていた木の面は、建築物として利用する場合も、そのまま南に向けて使ったという。それは、木は切り倒された後も、なお生命を持っているので、山に生えていたときと同じ方角で使うのがベストの選択であるという考えからだ。 
「樹齢千年の木は、建築材として使ってもそれ以降、千年の命を持つ」「木は二度生きる」と、西岡棟梁はさまざまな機会に語っている。法隆寺の昭和大修理の際、金堂と五重塔を解体したところ、軒を支える檜が屋根の重さで曲がって垂れてきていた。しかし、瓦や屋根土を降ろしたところ、曲がっていた檜が、二、三日すると曲がりが戻ってもとの姿になったのを、西岡棟梁は目撃する。西岡棟梁はいう「木はまだ生きていた」と。
 ここからは、木を知り抜いた西岡棟梁の、木に対する深い信仰と限りない愛情が伝わってくる。それは、飛鳥の匠たちが抱いていたものと同じ思いのように思える。
 
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回廊の外から風が吹き込み、中ほどが美しく膨らんだエンタシスの柱を通り過ぎて行く。 西岡棟梁の願いは、法隆寺の木の美しさ、飛鳥の工人の技を後世に伝え残すことだった。


解体しやすい日本の伝統木造建築

 木や鉄に対して、どのような立場をとるかは別として、日本の伝統木造建築が修理・修繕を行うことによって、残されてきたことは事実である。
 このような修理を施すことができるのは、日本の木造建築ならではの特徴があるからだと、坂本先生は指摘する。

「日本の伝統的な木造建築は、非常に解体しやすい構造になっています。レンガや鉄筋コンクリートの建物では、外見上隠れてしまっている構造材も、日本の木造建築では、梁や柱などを見ることができる。つまり、骨が外にむきだしになっていて、独立しているため、比較的容易に建物全部を解体することができるし、構造材が傷んでくると、その部分だけを取り替えることができるわけです。東大の赤門なども、柱の根の部分を根継ぎといって、継ぎ足しているんですね」

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 最近、古い民家の古材を使って、家を造ることが注目されているが、これが可能なのも、西洋建築にはない日本の伝統的な木造建築だからというわけである。
「近代になって西洋から木造建築の構法が輸入されましたが、日本の軸組構法との違いは、屋根を支える骨組みが、日本の伝統木造建築は水平材で上からの荷重を支える『和小屋』であるのに対して、西洋建築は、木材を三角形に組み合せたトラスで支える『洋小屋』であること、また壁は、日本のものが柱が壁の外に出る『真壁』であるのに対して、西洋は壁で柱を包んでしまう『大壁』であることです」
 西洋木造建築は、構法的に見て、分解しにくい構造となっている。以前、東大の校内にあり、今は小石川植物園に移築された旧医学校本館は、明治以降の西洋木造建築である。これを骨組だけにして修理したことがあるが、日本の木造建築と違い、大工事だったという。
「建築物を解体して再利用するという発想は、西洋人にはない文化であり、これまでなかなか理解されることがなかったのです。ここにきてやっと、建築関係の国際会議で、建物の姿形が一度まったく失われて、素材レベルになったものを再度組み立て直しても、オリジナルであるとする日本の建築文化が認められるようになりました。西洋のレンガ造りの建物など、一度失われてしまえば、そこで建物の生命は終わってしまいます。環境という面からいえば、木という素材を再利用する文化が、国際的に認知される意味は少なくないと思います」
Photo 明治9年(1876)に建築された旧東京医学校本館。西洋式木造建築で、かつて東大構内にあり、東大に関する建築物としては最古のもの。国の重要文化財に指定されている。現在は小石川植物園内にある。
 
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旧医学館本館1階にある柱。明治時代の木が新しい木で補修されている。

日本の木の文化と近代技術の間で

 構法だけでなく、近代的な建築素材も、最近ではたくさん使われるようになっている。現代木造建築の主役といわれる集成材もそのひとつだ。集成材は、丸太をいったん製材して板にしたラミナという素材を、接着剤で張り重ねて大きな木にしたものである。

「集成材は、何枚でも貼り重ねることができるので、板の厚さはいくらでも大きくでき、横幅のほうも集成材を並べて貼っていけば、いくらでも設計に応じた幅のものができます。またラミナは一枚の厚さが2〜3cmなので、かんたんに曲げることができるため、湾曲した集成材をつくることもできます。ふつう乾燥が不十分なまま大きな木材を使うと、完成した後から割れやねじれが生まれますが、集成材は容易に乾燥できるため、そのような問題も、ほぼ解消することができるのです。このほか、構造材としての強さも十分持ち合わせていて、集成材が現代木造建築の主役といわれるゆえんでしょう」

 しかし、坂本先生によると、建築家の中には、集成材は木というより鉄骨まがいのものとして捉える向きもあり、集成材によって建てられた木造建築を、亜鉄骨造と呼ぶ人もいるという。
「私は、無垢の木も集成材も"木"であることにかわりはないと思います。しかし、たとえば、木造で公共建築を建てるという場合、ある人は無垢で建てなければ木造建築とはいえないという人がいる。また、ある人は、今の時代には集成材を使うのは当たり前だと考える。"木"に対しては、人によってこのような2通りの態度があって、かんたんにどちらが正しいと決着がつく問題ではないと思いますね。無垢の木を日本の伝統的な文化とし、集成材を西洋近代文明と考えれば、この2つをどう認識するかは、夏目漱石からこのかた、ずっと悩んできた問題ですから、5年、10年でかたがつくわけがありません」
 それは、日本人の木に対する思い入れの深さを物語っている。木以外の素材で、これほどまで人々の意見を二分するものはないだろう。


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