地球にリスペクト! Vol.02

 「今僕らはやっぱり”みんな好きに生きるべし”と思っている。でも、その一方で…」

TAKESHI KOBAYASHI 小林武史さん

 小林武史の役割。それについて考えるとき、たとえば彼が作り出す素晴らしい音楽のなかで展開されるデジタルとアナログの絶妙のバランスが何かを示唆していないか?

 「そこが本当に言葉では言いづらいところなんですが、それはもういい悪いじゃないというか、なぜこれを取ってこれは取らないのかっていうのは本当に白黒つけにくいんですよね。環境の問題にしても、僕らは”エコレゾ”ということでエコ的な意識を伝えようとするわけですが、人によってその受け取り方は違ってしかるべきだし、そういう意味ではある人に向けて”それでは黒の割合が多過ぎる!”と文句を言ってみても始まらない、みたいなことがありますよね。いちばんおおもとのところでは多分、たとえばアメリカ的な資本主義みたいな考え方と、まったくそうではないものを指向する、ビジネスではない何かを指向するような考え方と、はっきり分かれる分岐点っていうのが何かあるとは思うんです。が、資本主義とか合理性を否定して持続可能な社会へ向かうということはなかなかむずかしいとも思うし。ただ最近は、競争原理が強くなり過ぎている資本主義みたいなものに対して、あるいは地球の歴史のなかでいろんなデータの数字が突然跳ね上がって地球にいきなり負荷がかかってしまっているという時代を経てきて、これは問題あるよねっていうことを感じている人はたくさんいるわけですから、もしかすると今持っている便利さがある程度なくなったとしても地球のことを考えるという方向へ世の中のベクトルが向かうのかもしれない。 たとえばエネルギーの問題にしても、日本では原子力がCO2を出さないエネルギーのエースとしてそのシェアを増やそうと考えている立場の人がいますよね。その人たちは、電力を十分に供給できるということをプライオリティの一番に考えているんでしょうけど、逆に多少停電とかすることがあってももっと安全で自然な状態であるほうがいいという人もいるかもしれない。だから、そういう”何を選択していくのか?”ということについては、何が正しいのかという見方じゃなくて、それぞれどんな問題が含まれているのかということがもっとガラス張りになっていくべきなんだろうなと思うんです。何が問題なのかということを浮かび上がらせる形があってしかるべきだ、と」


 そういう社会の問題を浮かび上がらせる形を実現するのは人々の気持ちだが、音楽はしばしば人々の気持ちを方向づける直接的な力を発揮する。”SEX,DRUG,ROCKN’ROLL”という言葉で象徴されるようなライフ・スタイルをリードした時代もかつてあった。他ならぬ小林もそんな時代に多感な時期を送った世代だろう。では今、この時代にあるべきライフ・スタイルとは?

 「そのあたりの答えについては、じつは僕も悩んでいるし、さっさと答えを出そうっていうようなことでもないと思うんです。ロックがもともともっていたメッセージというのはただひとつ、”人それぞれ、みんな勝手に生きるべし”ということだったでしょ。みんな好きに生きろよっていう。好きに生きるためにいろんなことを解放しよう、と。その先に愛みたいなものが存在してるんだっていうことだろうし。で、今僕らはやっぱり”みんな好きに生きるべし”と思ってるんですよ。思ってるんですが、でもその一方で最近北欧などでよく言われているダイアローグということ。対話ですよね。相手の目線に立ってみることとか面倒だと思っていることにもう一歩踏み込んで解決しようとすることとか、そのためにいろんなことをガラス張りにしていこうという意識を音楽も含めていろんなものが今発信し始めているという感じはすごくあります。それと個人的にすごく強く感じていることがあって、それは人が誰かと関わるときに人を救ってやろうと思って救うというよりも、相手が生きるように何かできたりすると、それってその人自身に返ってくると思うんです。実感として。人間にはそういうところがあるよなって。これって、子どもがいたり、家庭を持っている人にはわかりやすい話だと思うんですが。若い時期には、僕もそうでしたが、やっぱり自己実現ということが一番で、ガーンといくわけですよね。それはそういう時期だからであって、そういうことまで含めて社会の有り様として全体的にもうちょっとバランスをとっていけるんじゃないかなと思うんです。だから、”人それぞれ好きに生きるべし”は前提だとは思うんだけど、でもそのうえでどう生きるかということなんですよね」