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台風7号、8号、9号の三つをかいくぐり、宮古島の取材に行ってきた。なかでも、台風8号は、沖縄本島と宮古島の間をゆっくりと北東に抜け、強風が木々をへし折り、断続的に降る強い雨は視界をさえぎり、台風の力を再認識した次第。しかし、その猛威も夜半過ぎには治まり、風が治まるとともに海上のうねりは徐々になくなり、満月が海上を照らす実に美しい世界にスイッチした。その風景に見とれていると、ふと先月取材した、沖縄在住の版画家、名嘉睦稔氏の言葉を想い出した。
「沖縄の海人の間では、月のあまりに美しい夜は漁のために海に出るものではない。出るなら、遠くへ行ってしまいたくなるような気分を打ち消す、『陸との繋がりのある物』を持ってでないといけない、という言い伝えがある」と睦念氏は言う。
睦稔氏も夜、サバニで漁にでて、夢中になって釣りをしていると、常に海の底に何かの気配を感じることがある。夢中になって釣ってる時はいいのだが、ヒュイと魚の食いの止まる瞬間がある。食いのとまる瞬間というのは、例えばサメなど大きな生き物が近づいてくる場合などがあるのだが、急に食いが止ると、それまでの魚に対する想像とは違った想像力にスイッチが入る。すると、魚じゃない気配が漂ってきたり、船先の陰から誰かがこちらを覗いていたりといった怖い想像が働く、という。
海と陸の間には緩い境界線があって、その向こう側には異界がある。それは、人のちょっとした精神作用によってどちらかに振られてしまうことがある。そして異界は、自分の精神世界と現実が繋がっていて、一跨ぎすればすぐに変わってしまうという。そういった経験者の話を寄せ集めてみると、そこにはやはり「魔の口」が在る、というのだ。
台風はものすごい力をもっているが、こちら側がある種の緊張感を持って対峙しているので、風に飛ばされそうになったり、物が飛んできてぶつかるようなことはあっても、どこかに引き込まれてしまうようなことはない。しかし、平穏な気象の時にこそ注意をしなさい、と睦稔氏は言っているのだ。
また、睦稔氏の版画が人の心をギュッとつかむのは、自然と人間の関係性の中で沸き起こる好いことも悪いことも含めて、様々な出来事が封じ込められているからなのだろう。本格的な夏の訪れとともに、やはり「海に行くときは気を付けなさい」を胸に満喫してもらえたら、と思う。
ところで、来月の9月21日の夕方7時からに名嘉睦念氏の「Eath Art展 〜大いなる自然を彫り、奏で、生きる〜」というイベントに参加します。場所は丸の内のネイチャーアートギャラリー『さえずり館』という場所。詳しくはhttp://www.m-nature.info/gallery/index.html#200609をご覧ください。写真や映像を交えて睦稔さんの版画世界を読み取ろうというイベント。時間がある方、ぜひいらしてください。
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