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1968年、スチュワート・ブランドという当時29歳の若者が一冊のカタログ雑誌を創刊した。"Access to Tools"というコンセプトで発刊されたその雑誌は、自然回帰を唱えていたアメリカンヒッピーの間でベストセラーとなり、社会に大きな波紋を投げかけた。それが『WHOLE EATH CATALOG』である。
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| ホールアースカタログはかなり大判の雑誌。情報そのものではなく、役に立つ情報へのアクセス方法を集めた雑誌だ。創刊と同時に1960年代のウッドストックを代表とするアメリカカウンターカルチャーのシンボル的な存在となった。 |
「罪もない子供や老人たちが弾丸の雨の中で倒れ、生まれて間もない子供たちが飢えて死んでいく。明日の希望も見えないまま、機械の一部となって働く弱者。一部の層だけに冨が集中する資本主義という怪物は、文明という魔法のような言葉をたくみに使いすべてを飲み込んでいく。消費が目的となって、浪費を善とするありえない価値観。そのために純粋な命が犠牲になる矛盾。」
まさに、そんな時代に生きていた若者たちが「そうじゃないんだ!」と強く意識をシフトした具体的な形がそれだ。単に消費に向かって駆り立てるためのものではなく、逆にこの社会システムに依存せず、ひとつの生物としてこの惑星の上で、自立して生きるための手がかりを雑誌として提供していたわけだ。
この画期的な「カタログ」を作ったスチュアート・ブランドは名門スタンフォード大学で生物学を学んだ後、ベトナム戦争に2年間従軍。ホールアースカタログ成功後もニューエイジ系雑誌を創刊したり、"WELL"という先駆的なパソコンネットを創設したりもしている。また、後にアップルコンピューターを作ったスティーブ・ジョブスもスチュワートの友人だったというのだから、彼らこそこの時代の非社会的な頭脳集団だった。
話をホールアースカタログに戻すと、当時のヒッピーたちは都市文明の儚さに失望し、文明の先端技術の届かない自然の中で自分たちだけで「コミューン」という独立した共同生活形態を行なっていた。自からの労力で菜園や家を建て、有機農業を率先して行なう。また、コミュニケーションの重要性を唱え、遠く離れた仲間たち親密な情報交換をするために、今でいうネット通信の原型のようなものを考案する。当時としてはかなり斬新で画期的なことを行なっていたわけだ。
その彼らが、自然のなかで生きるために必要とする基本的なノウハウや道具などの情報を一堂に集めたものが、ホールアースカタログの内容だ。当時は、ちょっとした物事に直接アクセスすることが、とても困難な時代。そのなかで、まさに"Access to Tools"、「道具へのアクセス」という言葉どおり、様々な情報源を紹介している。それが「オルタナティブな暮らし」という新たな価値観を与えたわけだ。
西暦2007年。この地球に狩猟採集社会が始まり、数十万年たった。しかし、その間に築きあげてきたこの文明社会は、今、あきらかな転換期を迎えている。しかも、この文明社会を「単純に白紙に戻す」という考えではなく、どのように「自然と人が上手にやりくりできるのか?」、どのように「デザインし直すのか?」を、問われている。便利な物はどんどん利用する。しかし、一方で便利にする必要のない物はオリジナルを大切にする。情報化の中で重要なのは、個人のインディペンデンスな選択眼とリアルな道具たち、そしてその精神を貫く潔い気分が大切だ。そのホールアースカタログのコンセプトと精神が、今なお脈々と培われ、育まれているのが「リアル・グッズカタログ」だ。ぜひ、サイトにアクセスを。今、自分たちに何が必要で何が必要でないのか、はっきりと自覚できるのではないのだろうか。
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